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応用生態工学会セミナー

「本来の川を取り戻すために...その3 〜土砂の流れがつくる“多自然川づくり”〜」

 
「多自然型川づくり」(1990通達)を提唱した関正和さん(1948〜1995)の遺作「大地の川」(草思社、1994)に、次のような文章があります。
『多自然型川づくりをささえる学問体系や技術体系が整備され・・・玉石混淆の時代を抜け出して、洗練された玉ばかりの時代を迎えるまでに、今後、なお10年から15年はかかることであろう。しかし、そのときには「多自然型川づくり」という辞書にも出てこない変な日本語は死後になるであろう』と。
通達から15年が経過し、国交省は「多自然型川づくりレビュー委員会」を設置(2005)しました。この委員会では、15年間に実施してきた多自然型川づくりの批評や検証をおこない、関さんが期待した玉ではなく石が多くみられる現状認識に到達したようです。この現状の解消がこれからの課題と定め、川づくり水準を向上させる技術的な検討と仕組みづくり・人づくりを踏まえ、提言(2006)にまとめました。国交省は提言を受け、“型”を外した「多自然川づくり基本方針」(2006)を新たにつくり、関係機関に通知しました。
さて、「多自然川づくり基本指針」の留意すべき事項には、「その川の川らしさをできる限り保全・創出されるように努め…」とあります。「その川の川らしさ」を具体的に言い表わす難しさに悩んでいませんか? ひとまず、「その川の営力による、その川の河床や河岸の地形撹乱の健全さが維持されていること」として私は理解しているのですが、当たらずとも遠からずではないでしょうか。
河川工学では過去から現在まで川の営力(流水圧・掃流力・二次流など)、河床や河岸の撹乱(河床変動・河岸侵食など)についての研究も重要なテーマでした。研究結果との直結は難しいのかもしれませんが、「多自然川づくりにおける川らしさの保全・創出」のヒントがここあらも得られると、思っています。
応用生態工学は、生態学的知見を土木工学の分野に応用するための工学的手法を意識した言葉(廣瀬監修、増補応用生態工学序説、信山社サイテック p4、1999)と定義されています。生態学的知見から土木工学手法へ応用する変換作業(生態学的知見→土木工学)はそうとう困難(というよりほとんど無理)と実感してきました。
発想を変えた、生態学的知見⇔土木工学〜仮説⇒実験・検証⇒フィードバックという“順応的管理”の変換ループが現在提唱されています。ここで重要なことは、改変(インパクト)を実験的にその川で実施することで得られた生態学的知見の関係性を見つけること(仮説を検証すること)、そして検証された知見を今後の場の管理に活かすところです。ところが、「場の改変(インパクト)を実験的に実施する」には、「こうしたら、こうなるであろう、なぜならば、このような力量が働き、このような変化量を起こすから」という土木工学の定量的な視点による場の変化プロセスの予想を見立てられる力、すなわち仮説力が無くてはならないはずです。そうでなければ、いつまでたっても「やってみなければ分からない」という定性的あいまいさの繰り返しに終始します。これでは、仮説を立てて、その仮説を検証して評価する、という科学的な評価手法につながりません。
仮説力をつけるために、河川・砂防工学の研究結果の吸収が必須と考え、「本来の川を取り戻すために・・・その1(H17、渓流・河川横断構造物の切り下げ(スリットを含む))」、「本来の川を取り戻すために・・・その2(H18、自然再生を拓く河床低下対策)」のセミナーを開催してきました。過去2回のセミナーテーマはマニアック過ぎる、という批評もありました。そこで今回(その3)は、なじみのある「H19、土砂の流れがつくる“多自然川づくり”」をテーマにしました。セミナーは、現地見学と室内講演の組み合わせです。
講演順に5人の講師の演題を紹介します。
@中村太士講師(応用生態工学札幌代表 北大院) : はじめに、〜あいさつ〜
A木下良作講師((元自由学園)): ADPによる洪水時の流れ構造の観測
B山本晃一講師((財)河川環境管理財団 河川環境総合研究所長):
沖積河川地形の構造とその挙動
C池田 宏講師(元筑波大学陸域環境研究センター):
山地河川の地形変化〜岩川から石川へ、石川から岩川へ
D長谷川和義講師((財)河川環境管理財団 研究顧問) :
山地部・沖積部における種々の流れ形態とハビタット
講演の司会は、河川工学分野から渡邊康玄さん((独法)寒地土木研究所)、河川環境経済分野から山本充さん(小樽商大院)の両名にお願いしました。

興味のある方は日時や参加費等について、下記に直接問い合わせをしてください。
問い合わせ先・・・応用生態工学札幌、千葉 南 (北大院、森林生態系管理学研究室)

     FAX:011-706-3842