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応用生態工学会ニュースレター No.9

Ecological and Civil Engineering Society(ECES)


1999年12月10日 (金)発行
〔発行所〕応用生態工学研究会事務局 :
〒102-0083 東京都千代田区麹町4-5 第七麹町ビル 226号室
TEL. 03-5216-8401 FAX. 03-5216-8520
〔発行者〕応用生態工学研究会 (編集責任者: 幹事長 :谷田一三, 事務局代表 熊野可文)

6. いろいろなニュース


(2) 新著紹介


  • 「ブラックバスがメダカを食う−日本の生態系が危ない」
    秋月岩魚著、宝島社新書、本体660円:

    「深刻な環境・生態系破壊を起こすブラックバスを早急に駆除しないと日本の河川・湖沼は死に絶えてしまう(帯広告から)」、 これが著者のメッセージであり、評者も賛成である。食われるメダカのことまでは書ききれていないが、 オオクチバス(ブラックバス)とコクチバスの移入と分布拡大の経緯、それに伴う環境破壊の状況は、よくまとめられている。 また、バス関係者への非難も、いわゆるバスプロ、釣具業界、釣り雑誌、水産研究者などの意見が実名もあげて引用され、 反バス釣りの立場からの主張はよく理解できる。河川湖沼の生態系の頂点にたち、日本の風土に競合種のいないバスが、 生物システムに大きな影響を与えることは、生態学を少々学んだものには明白なことである。 釣り人の利己主義とその周辺の商業主義が、日本固有の自然を破壊する権利はない。 「違法な移植放流によって成立しているバス釣りスポーツは、ある意味では麻薬と同様の犯罪的な行為である」、 やや過激な主張のようだが、大筋では納得できる。バスによる環境破壊、生物多様性破壊を防止する手持ちの手段が、 極めて寂しいこともよくわかる。水産行政はバスの駆除を呼びかけるが、これもむなしい。琵琶湖や霞ヶ浦で駆除したバスを、 漁業権を公認した芦ノ湖に売って放流させるのは、芦ノ湖個体群の遺伝的多様性を増やし(広義の雑種強勢)、 将来的には禍根を残す可能性もある。琵琶湖は、多くの固有生物種を持ち、古代湖として世界的にも重要な自然遺産である。 まずは、ここを重点湖沼として、社会的制度(条例や漁業調整規則など)の整備も含めてバスを徹底的に駆除する必要がある。 バス問題は、日本の内水面漁業と行政の貧困を浮き彫りにしている。漁業不在の内水面では、組合が遊漁料を徴収する権利と 交換に放流を義務付けられている。湖産アユの放流も生態系の撹乱を起こし、他の河川を親魚とするサケマス類の放流は確実に 遺伝的な汚染を起こす。放流に頼らず、河川環境の保全と遊漁の管理に基づく、内水面の健全なゲームフィッシングの確立も、 バスの駆除と同様、緊急の課題である。[谷田一三]


  • 「中海本庄工区の生物と自然」
    国井秀伸(汽水域研究グループ代表)編著、たたら書房、本体952 円:

    中海本庄工区。面積1700ヘクタール、中海の北西部に位置する水域は、本来は海水と汽水の混合する豊かな漁場であったという。 1968年から始まった干拓工事、1987年に完成した大海堤防と馬渡堤防によって、本庄工区水域はほぼ完全な閉鎖水域になった。 しかし、中海につながる沿岸水路(将来の排水路)と干拓予定水域との間には幅200m、深さ4mの2ヶ所の切れ込みが残り、 中海、さらには外海との連絡が保たれている。この切れ込みが閉じられれば、本庄工区は諌早湾干拓地の運命をたどることになる。 この人工的な閉鎖水域には、予想もされなかった環境と生物相が保たれてきたと、この本は語る。 ここに流入する河川の汚濁負荷が少ないことや底層付近の貧酸素状態が起こりにくいことにより、中海より良好な水質が保たれ、 生物のゆりかご、避難所となっている。この水域を目指して細い水路を2km以上も、魚類や甲殻類が、中海から遡上してくるともいう。 本書では、地形、地質、水質、プランクトン、ベントス、海藻、魚類など、それぞれ簡単ではあるが、適当な入門ガイドとなっている。 編者は、この工区の生物多様性に着目して、水産業も含めて将来の利用を考えるべきだと主張する。 しかし、宍道湖、中海も含めて、この地域の汽水湖に生物多様性については、報告書はあるものの、学術論文の数は少ない。 水質環境については、国内外の学術雑誌に多くの論文が発表されているのとは、きわめて対照的である。 編者も含めた研究グループには、この面での研究と成果の発表もお願いしたい。生物多様性を機軸とした開発の見直し論議には、 その基盤となる科学的な資料の蓄積と公開が、重要な必要条件であろう。[谷田一三]


  • 「長良川河口堰が自然環境に与えた影響」
    長良川河口堰事業モニタリング調査グループ・長良川研究フォーラム・財団法人日本自然保護協会(編集)、 財団法人日本自然保護協会、本体3,000円:

    全国的に注目されてきた長良川河口堰について、住民団体などが主体となった調査報告書。 水質および底質、動物プランクトン、底生動物、魚類、植物、野鳥と、環境と生物についてを網羅した報告である。 一部の論文は、学会誌などの掲載論文の再録あるいは翻訳で、一定のレベルに達している。 これらは、原典を入手しにくい読者にとっては便利でよい。それ以外の報文は、「これまで私たち自身の手によって把握できた 河口堰と関連がある、あるいは関連があるかも知れない事象をできるだけ正確に報告することにある」という視点は貫徹されている。 しかし、一部の報文は調査回数も少なく、単なる1例報告にとどまっているものもある。調査の目的意識が読者に伝わってこないものもある。 「各々の著者が責任を持つ」という編集方針のためか、残念ながら玉石混合の報告書となった。 このなかで、後藤宮子さんの報文「長良川中流・今川における回遊魚の年別捕獲個体数の変化」は、 「登り落ち」というトラップを使った30年以上に及ぶ資料の一部であり極めて興味深い内容である。 しかし、この研究の全体資料の解析のなかで、河口堰の回遊魚の遡上数の変動に及ぼす影響が知りたい。 河口堰の影響のなかにはこれから顕在化するものも多いだろうし、今回の報告のなかにはさらに資料を積み上げる必要のあるものも多い。 建設省、水資源開発公団も、かなりの資料を公開しはじめている。次回の報告書が、さらに充実したものになることを期待したい。 [谷田一三]


  • 「マダガスカルの動物その華麗な適応放散」
    山岸 哲(編著)、裳華房、本体4,200 円:

    本会副会長の山岸さんの3冊目のマダガスカルの本。「マダガスカル鳥類フィールドガイド」は鳥類の図鑑だが、 この本は陸上脊椎動物の百科事典で、よくまとまっている。南の島のサルの歌で馴染みのアイアイをはじめとする原猿類、 移入種を含む陸上哺乳類、ウミガメも含む爬虫類、両生類、それに鳥類について、内外の研究者が分担執筆している。 日本人研究者が書いた動物類もよくまとまっているが、イタリア人研究者の執筆した両生類は、 評者には馴染みの少ないこともあって興味深かった。よく知られているように、マダガスカルは、ジュラ紀(1億6千年前ごろ) にアフリカ大陸から分かれ、現在までほぼ独立の島の状態が続いた。 地球史の意味での「箱舟」で、原猿類、それに今は絶滅した走鳥類(ダチョウの仲間)のエピオルスをはじめ、 ゴンドワナ大陸(古生代のパンゲア大陸が2つに分かれた片方の大陸:現在のアフリカ、オーストラリア、南米、南極、 インド亜大陸を含む)に起源をもつ生物の宝庫である。適応放散の面白さとともに、古い生物たちの形態・生態・習性も興味深い。 最後の第7章は「自然保護と環境保全」、オーストラリア・クイーンズランド大学大学院に在学中の川又由之さんが執筆している。 資料としてはよくまとまり、発展途上国の自然保護と開発の問題点がそれなりによく判る。しかし重大な課題であるだけに、 著者の視点と主張がもう少し読みたかった。[谷田一三]


  • 「陸水学(原著第2 版)」
    A.J.ホーン・C.R.ゴールドマン著、手塚泰彦訳、京都大学学術出版会、本体7,800円:

    日本語訳で600ページ以上になる大著、残念ながら全体を通読する時間はとれなかったので、紹介としたい。 訳者の手塚さんは、京都大学生態学研究センターの教授(旧京都大学付属大津臨湖実験所では所長)を定年退官される前後の2年ほどを、 本書の翻訳に割かれたと聞く。先に紹介した「動物の生態」を執筆された森主一さん(元同臨湖実験所所長、京都大学名誉教授)といい、 現役の私どもよりお元気で、その活力にまずは脱帽する。訳文は、几帳面な手塚さんの人柄がよくあらわれていて、 全体としては的確である。陸水という言葉は、一般には馴染みの少ない言葉かもしれない。内陸にある水域のすべてを対象とする科学。 もともと陸水学は湖沼を対象とする学問であったが、河川、湿地、地下水、氾濫原、それに温泉も含まれるようになった。 学問分野としては、地球物理、化学、生物、それに社会科学も含めた応用的分野も含まれる。このような多岐にわたる対象、 分野から見て、2名程度の執筆者が陸水学の全体を語るにはやや無理があるのかもしれない。 少なくとも、評者の専門である河川に関連する章は、最近の成果が盛り込まれているとはいえない。 また、著者の専門分野のためか、魚類、ベントス、プランクトンなど陸水生物分野も、少々もの足りない。 「大河川とその氾濫原」の章は、日本の類書にないものであるが、これも研究の進んでいるアマゾン、ミシシッピなどの紹介に とどまっている部分が多い。しかし、「湖沼学」の教科書がない日本の現状では、それなりに便利な図書である。 日本の陸水学は、今年100年を迎えたと言う。また、日本陸水学会の機関誌「陸水学雑誌(和文及び英文論文を収載)」は、 今年で60巻(ほぼ各年1巻)になる。本書には30あまりの陸水学関連の雑誌が巻頭にあげてあるが、そのなかには日本の雑誌はない。 また、数多くの引用文献が収載されていて、それなりに便利であるが、日本人の研究者の論文の引用は10点に満たない。 日本陸水学の力不足か、一部のアメリカ人研究者に見られる英米至上主義か、少々ならず残念である。[谷田一三]


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