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応用生態工学会ニュースレター No.8Ecological and Civil Engineering Society(ECES)
鷲谷いづみ幹事が講座主任を担当し、橘川次郎副会長、谷田一三幹事長、中村太士幹事の4名による8時限の基礎講座「多様性と保全の生態学」が 7月17日〜18日の2日間、札幌の北海道大学学術交流会館で開催されました。 翌19日は札幌市の基盤を造った豊平(とよひら) 川を上流から下流まで見学しました。 北海道は自然が多いとよく言われ、当たり前のように納得するどさん子が多いようです。しかし、実態はどうでしょう。 北海道の固有性と関係の無い自然も含めてひと括りでとらえ、自然が多いと満足している気がします。 広大な面積を有する北海道は持続可能な開発がまだ続く土地柄です。これからも当分、自然環境の改変が続くでしょう。 このような状況にある北海道で「多様性と保全の生態学」について基礎講座を開催したところ、多くの技術者が受講しました。 受講者は17日220名、18日は198名、現地見学は講師も含め45名でした。 受講者の内訳は、道内85%、道外15%。男性80%、女性20%。工学系60%、生態系40%。社会人80%、学生20%でした。 特筆すべきは、女性と学生が各々全体の20%を占めていたことです。会場の雰囲気が和らぎ、講座内容の固さを程よくもみほぐしてくれた気がしました。 受講者には前回の大阪でのワークショップ同様、修了証が4人の講師から一人一人に手渡されました。修了証は申込みの代理でもかまわないが、 2日間連続して受講した人のみ、という条件を付けました。このため受付した全受講者の約8割、170人が修了証を手にしました。 今回の実行委員は、大学4名 (内学生3) 、行政1名、建設コンサルタント等7社18名の計23名です。 受付など担当部署をきめ、Eメールでやり取りをしただけの当日ぶっつけ本番で実行したのですが、たんたんと進行しました。 本業で忙しい委員は、会合なしでもこのような講座が実施できたという事例が獲得できました。 担当の責任感とチームワークを今後大事にしたいと思います。各講義の概要と現地見学の様子はつぎの通りです。 1日目の7月17日 (土) は13:00〜18:30まで4講義行われた。 《1時限》 13:00〜14:15 鷲谷講師「生物多様性と健全な生態系の持続 : 目標と現状」鷲谷先生の著書「生物保全の生態学」を教科書として、各テーマについて具体例を用いわかり易く進められた。 「生物多様性の保全」と「健全な生態系の持続」は、後の世代が現世代と同じように自然の恵みを享受しながら 人間らしい生活を営む権利を保障するための社会的な目標である。 生態系や多様性の維持機構等に関する我々の理解が十分でないため、その改変や人為的干渉の影響を十分に予測することは 難しいのが現状である。そのため悪い影響を及ぼす恐れのあることは出来るだけ避けるという「予防原理」に基づく判断が大切である。 《2時限》 14:25〜15:40 鷲谷講師「生物多様性の危機の現状と要因」生物多様性の危機の現状把握には、「種の絶滅」に着目するとわかりやすい。現在の絶滅は、その速度と規模、 新たな種分化を伴わない絶滅という点からも、過去の自然の絶滅とはまったく異なる現象である。 生物多様性の危機をもたらす主要な要因としては、生息・生育環境の喪失とその分断・孤立化、侵入生物の影響があげられる。 《3時限》 15:50〜17:05谷田講師「河川生態系における食物連鎖とその多様性」河川生態系における底生動物群集にとって、落ち葉などの外来性有機物は餌資源として非常に重要である。 しかし、これらの底生動物は食性の幅が広く「でたらめに」食べている傾向が強い上、発育段階や季節によっても異なる。 そのため、河川においては食物連鎖のつながりを表わす指数:コネクタンス (種間結合度) が高く、その複雑な構造はまさに「食物網」となっている。 《4時限》 17:15〜18:30 橘川講師「多様性の生態学1 : 生物群集を理解する」生物の群集、集団とは、単純な要素の集まりではない。群集を構成する要素とその相互関係、群集の集合体である生態系、景観 (景相)など、すべての段階を考慮しなければ、多様性はわからない。 ニッチやすみわけなどの基礎概念をはじめ、さらに動態や、多様性と群集構造などに注目することで、 環境との対応など生物群集を理解する評価軸が見えてくる。 (おまけ) 「オーストラリアの鳥類生態ビデオ上映」 最近撮影された珍しい鳥類生態のビデオを、1日目の講義終了後、上映した。 2日目の7月18日 (日) は9:00〜16:30まで4講義行われた。 《5時限》 9:00〜10:30 橘川講師「多様性の生態学2 : 動物の多様性を支配する要因を探る」生物群集を現象的に把握するだけではなく、その多様性について支配要因を理解することは、 応用生態工学的なアプローチにおいて重要な課題である。ここでは、乾湿や地形などのさまざまな環境条件を題材として示しながら、 動物の多様性に関する支配要因となる9の視点 (進化の歴史/面積 (規模) /環境傾斜/植物の種類/群落の構造/群集の組成/ギルドの大きさ/ニッチの幅と重複/多様性の動態)を解説する。 《6時限》 10:45〜12:15 鷲谷講師「絶滅過程を科学する-個体群の衰退と絶滅」かつては大きな個体群を成していたものが、何らかの原因で急に衰退して小さな個体群となった場合は、 絶滅する危険性が大きいので注意が必要である。 小さな個体群で絶滅のリスクが高まるのは、生存率や繁殖率が低下 (決定的要因) し、偶然性が個体群の動態を強く 支配するようになる (確率論的要因)ことによる。 種の保全においては、環境変動性を把握すること、4桁以上の個体数を確保すること、情報が少ない場合には、 4桁以上の個体群を2桁以上確保することが必要である。 《7時限》 13:15〜14:45 鷲谷講師「生物多様性保全のための管理と計画」生物多様性保全のためには、持続性を目的にした「生態系管理」の概念が重要である。その実行においては、 大きな不確実性を伴うため、事業のモニタリングによる検証、多様な利害関係者の意志を反映させた「事業の改善」 を行うといった順応的管理が必要である。「為すことによって学ぶ」ための順応的管理プログラムにおいては、 管理者、市民、研究者の前向きな係わりあいが成功の鍵を握る。 《8時限》 15:00〜16:30 中村講師「水辺林の更新動態と生態学的機能」流域の生態系を考える場合、重要な構成要素として、河川の物理環境がある。流域の上流から下流に向かって、 山地渓流・扇状地河川・自然堤防帯河川にわけると、河川の形態および構成要素は顕著に変化する。 流域における森林と河川の相互作用を考えるとき、水辺域(河食によって形成された区域) を「構造」と「機能」に区分する必要がある。河川の構造は基盤条件を形成する河床地形と斜面地形および水辺林から成る。 水辺域の機能は、日射遮断、流下物の捕捉、保持などがある。 河川形態の変化がもたらす水辺林の種分布、河川の様々な物理的構造、さらにこれらを巧みに利用する水生生物の摂食機能変化など、 河川沿いの生物群集は河川が持つダイナミクスと、それによる地形を利用しながら存在してきた。 重要なことは流域システム全体を維持するために、水辺域の構造と機能を正確に理解し、 動的に管理する手法を採用することである。 3日目の7月19日 (月) は8:00〜13:00に現地見学を行った。 現地見学現地見学は、一般参加者30名、講師3名、説明者6名そしてスタッフ6名の総数45名で実施した。 札幌は豊平川の扇状地上にできた都市だが、扇状地の上流、下流にも都市が拡大して自然環境が変化している。 変化しつつも都市の中に残された豊平川周辺の身近な自然の状況、すなわち豊平川の現況を上流から下流まで見学した。 まず札幌の中心市街より30km上流の定山渓 (じょうざんけい) ダムで湖水面周辺の環境と生態学的混播法 (タネや小苗による自然林再生方法)を見学した。つぎは近くにある樹木のタネ56種から11880ポットの小苗をつくっている 岡村宅 (生態学的混播法の考案者)に移動した。移動中のバスでは、「なぜダムのあそこに小苗を植えなければならぬのか、 自然の遷移にまかすべきではないか」との疑問が出され、意見交換もされた。 つぎは藻岩山の頂上から豊平川の全景を把握した。頂上から下って中流の扇状地にかかる幌平(ほろひら) 橋、 下流の沖積地にかかる雁来 (かりき) 大橋からそれぞれ豊平川の景観をみて8:00〜13:00の半日現地見学を終了した。
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