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応用生態工学会ニュースレター No.4

Ecological and Civil Engineering Society(ECES)


1998年7月22日 (水) 発行
〔発行所〕応用生態工学研究会事務局 :
〒102-0083 東京都千代田区麹町4-5 第七麹町ビル 226号室
TEL. 03-5216-8401 FAX. 03-5216-8520
〔発行者〕応用生態工学研究会 (編集責任者: 幹事長 :谷田一三, 事務局代表 熊野可文)

2. (1)「生態学/ 保全生態学基礎講座」開催報告

鷲谷いづみ企画担当幹事と橘川次郎副会長による連続セミナー「生態学/保全生態学基礎講座」が、 5月1日〜6月19日、神田駿河台の中央大学駿河台記念館で開催されました。

遺伝子の多様性から生態系の多様性までのつながり、またそれらの歴史的な視点からの捉え方などについて、 身近にある分かりやすい事例や美しいスライドを交えた講義が行われ、会場は、連日、真剣に耳を傾ける受講者 で埋め尽くされました。講義内容については、後述します。

受講者は、当日の代理を含めて総数160人あまり。保全生態学の分野では、日々精力的に研究、 活動されている先生の講座ということもあり、当初から募集定員を越える応募がありました。

講座は、ゴールデンウイーク中に始まり、その後も週2日というペースで開講されたのですが、 事務局側の予想を上回る出席者数で、会場は毎回ほぼ満席の状態。一時は、立ち席者が出るのではないかと心配したほどでした。

受講者は、民間のコンサルタント会社からの参加がもっとも多かったのですが、学生の方や財団法人、 NGOの方も参加されていました。また、今回は東京での開催でしたが、遠く福岡や広島からの参加もありました。

最終回には、講座を習得された証しとして修了証が発行されました。修了証には、 7回の受講中5回以上参加された方にのみ発行するという厳しい(?)条件が付けられていましたが、それでも受講登録者の 6割にあたる101人の方が修了証を授与されました。これからも、受講者の方々の真剣さがうかがえると思います。

では、各講義の概要をまとめておきます。


第1回:5月1日(金) 鷲谷先生

「生態学と保全生態学」及び「地球環境問題における生物多様性」

生物多様性の現状について、IUCNレッドリスト掲載種数の多さに加えて、地球上に生息する全生物数の推定の難しさ、 熱帯雨林における種の記載の遅れ等、不明な点が多くあり、危機的な状態にある。

生物多様性が失われることは、我々人間にとってもいろいろな面でマイナスとなる。 このような生物多様性の危機に対して、科学的に問題提起をするのが、保全生物学あるいは保全生態学であり、 社会的な使命をもつ。


第2回:5月8日(金) 鷲谷先生

「生物多様性の進化的根拠」

生物多様性を生み出す進化的な原動力として、突然変異、自然淘汰、隔離、戦略が挙げられる。 これらのベースとなっているのが遺伝子である。なぜ遺伝子が関わっているのかというと、 それにより生物の形状や行動様式が決まってくるからであり、それが遺伝により後世に伝えられていくからである。 さらに、これらに生物間相互作用が加わることにより、無限の生物多様性が生み出されることになる。


第3回:5月11日(月) 鷲谷先生

「生物多様性の生態学的根拠」

多種の生物が共存できる原因として、生物の生息する環境が不均一であること、また時間的に安定していない(撹乱)ことがある。 これは、競争排除の原理が起りにくいためである。生物多様性がもっとも大きくなるのは中程度の撹乱がおきる状況下である (中程度撹乱説)とする説が有力視されている。


第4回:5月15日(金) 鷲谷先生

「個体群とメタ個体群の保全」

個体群が絶滅しないためには、遺伝変異が重要性である。 この理由は、環境の変動や、世代の短い寄生者へ対応するためと、有性生殖するための交配型の確保する必要があるからである。


第5回:5月18日(月) 橘川先生

特別講義「再び、保全生態学とはなにか?」

オーストラリア沖の島での鳥類を対象とした研究例を示しながら、誰もが疑問に抱く「なぜ種類が多いのか」 「どんな種の特徴があるのか」について説かれた。 種類数の多さには、植物が作り出す多様な空間や、ニッチの幅とその重なり、環境の傾斜などが効いているが、 それも程度によって種類数の過多が変わってくる。


第6回:5月22日(金) 橘川先生

特別講義「オーストラリアにおける保全生態学」

生物の保全は、保護区だけでは行えず、保護区外保全が重要である。 ビクトリア州では、生息地の断片化を防ぐ、あるいは断片化している生息地をつなげるために、植樹を行う運動がある。

また、オーストラリアでは、レッドデータブック記載種のすべてについて、保全計画が策定あるいは予定されており、 いくつかのものについては既に実施されている。


第7回:6月19日(金) 鷲谷先生

「生物多様性の管理・回復」修了証授与

生物多様性の保全とは、地域に固有な種や生育場所を適切な管理によって維持することである。

植生の回復には、土壌シードバンクを用いる方法がよく使われる。この方法の具体的な作業や注意事項についてや、 また生物を導入するときの注意事項について解説があった。


では、講座の雰囲気をお伝えするために、受講者を代表して (株)環境調査技術研究所の土橋亨子さんの感想をご紹介します。
(実行委員黒石和宏、佐々木英代)

私がこの講座を受講した理由は、一つには単純に生態学に興味があったためだが、 それだけでなく生態系の中でどのような生物間相互作用があり、多様性を維持するためにはどのような視点から保全を考えるべきかも学びたいと思ったからである。

講義では様々な生物を例に話を伺うことができたが、その中で私にとって非常に興味深かったのはサクラソウについてのお話であった。

私は園芸種として売られているサクラソウは昔から好きであったが、サクラソウが自生しているのは見たことがなかった。 大学の時に初めて荒川左岸の田島ヶ原が自生地として残っているのを知り、一度だけ見に行ったことがある。 そのときに花びらの形が様々であったことをとても不思議に思った覚えがあったが、講義の中でそれが、 サクラソウの花びらの形を決める遺伝子配列が少しでも異なると表現型である花びらの形の違いとなって現れるからだと知って疑問が解けた。 また、そのことが遺伝子の多様性を知る手がかりとなることも分かった。

現在私は通勤途中のJR武蔵野線の上からその自生地を毎日見下ろしながら通勤しているが、 そこは道路や堤防などで上下流の河原と隔離され、対岸では産業廃棄物業者の煙突から黒煙がたち上っている。 鷲谷先生が、ある種の保全のために必要な条件を確保することによって同じ生育場所の生物を守ることになると話されたが、 それは、その種の保全のためにはそれを取り巻くポリネーターなど生物をはじめとする環境すべてを考えなければならないということでもあり、 講義を聞いた後、この断片化された場所でサクラソウの群集の維持に必要な環境がいかに欠けているのかを改めて認識した。

生物は自分の子孫が生き残るために、遺伝子の多様性を維持し、様々な適応戦略をとっている。 サクラソウではそれが自家不和合性、異型花柱性、ポリネーターに適応した花の形などであり、 その様々な適応戦略は、進化の過程における試行錯誤の結果であるということを講義で学んだ。いま、人間がその活動により、 様々な生物の長年にわたる試行錯誤の成果を一瞬で壊しているが、今後、今ある種や多様性を保全していくために、 この講義で学んだことを少しでも仕事で生かしていけたらと思う。

(土橋亨子)

「生態学/保全生態学基礎講座」研究会主催のはじめての講座ということで、どのくらい受講者が集まるだろうか、 果たして受講者の期待に応えるような講義ができるだろうかと、開講までは不安で一杯でしたが、 事務局と実行委員会のメンバー皆様の献身的なご援助と熱心な受講者の皆様に助けられて、どうにか盛況のうちに講座を終えることができました。 今後も会員の皆様の要望にもとづく多彩な講座や現地セミナーなどを企画・実施していきたいと思っております。(鷲谷いづみ)

事務局からのお知らせ

今回の講座で発行した修了証は、今後もセミナーや講座ごとに発行する予定です。 受講の証しとしてはもちろんですが、より難しい講座や、基礎的知識・経験の先行取得が望ましい講座の場合には、 受講条件として修了証の所有を義務づけるかもしれません。もちろん、これについてはまだまだアイデアの段階ですが、 会員の皆さまの励みになるようなしくみを考えてみたいと思っています。ご意見をお寄せください。



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