- 「貝のミラクル―軟体動物の最新学」 奥谷喬司編著、東海大学出版会、本体2, 500円:
日本の軟体動物学、マラコロジーの現在の先端を一気に読める。
18人の著者の競作は材料が多岐にわたるだけでなく、内容も極めて変化に富んでいる。
読後感は、いわば寄せ鍋の旨さのようなおもしろさであった。水中を泳ぐ映像で有名になったクリオネ (ハダカカメガイ) 、
養殖カキで問題になった貝毒、話題となっている環境ホルモンで注目を浴びたイポニシなど、貝がコレクターの対象や生態学などの学問以上に、
人とのつながりの大きいことを再確認した。カサガイの時差出勤、巻き貝の右券きと左巻きの問題、深海の熱水噴出口のシロウリガイなど、
興味のつきない話題も多い。淡水貝類の話題がないのが個人的にはさびしいが、最新の日本の貝類学の好著。編集作業に時間がなかったのか、
校正ミスが少々目につくのが惜しまれる。 (谷田一三)
- 「和州吉野郡翠山記―その踏査路と生物相」 御勢久右衛門編著、東海大学出版会、本体10, 000円:
畔田翠山 (くろだ・すいざん) は、幕末の紀州藩士、本草局の医員で採薬に従事した。
この翠山記は、当時の大和国吉野郡の山岳、文化、生物の踏査記録である。江戸期の本草学の書としては、
小野蘭山の「本草網目啓蒙」などが著名であるが、翠山の記述は地域博物学として優れているだけではなく、
現地・現物を自ら調査し、先人の書を的確に引用・批判し、新知見を示している部分など、
まるでよくできた科学論文を読むかの章も多い。
サンショウウオについては、「啓蒙」の3種の混同を明解に指摘し、のちに新種として記載されることとなる、
オオダイガハラサンショウウオも現地名「ヤマイオ」として正確に記録している。
紀伊半島の固有亜種のキリクチイワナ、現在は見られなくなったクロユリなど、生物学にとっても
興味深い記述が続く。解題や解説も読み飽きない。編著者の御勢さんは、紀ノ川沿いの奈良県五條市に在住で、
当時の奈良女子大学教授津田松苗さんの指導を受けて、水生昆虫の群集生態学で理学博士 (京都大学) を取得された。
また、登山家としては今西錦司さんに師事し、博物学については上野益三さんの薫陶を受けた。
翠山記の解説と解釈には御勢さんの博物学・生態学の知識が全面的に生かされているだけでなく、
翠山の踏査路をたどった氏の登山家としての眼も生きている。 (谷田一三)
- 「共生の生態学」栗原康著、岩波書店 (新書新赤版546) 、本体640円:
著者の粟原さんは、1926年生まれ、戦後生態学の第1世代を代表する学者で、岩波新書にあった「有限の生態学」は、
評者も学生時代に読んで感銘を受けた。小さな生態系 (モデル、自然界とも) の動態とメカニズムを一貫して追及してこられたが、
IBP (国際生物学事業) などで、蒲生干潟の生態系などについても大きな成果をあけられた。
本書は、著者の過去の研究成果の集積とともに、エコテクノロジーを核として、著者なりの将来への展望も示されている。
当世はやりの「共生」が表題にあげられているが、内容はガイヤ仮説まで含んだ、生態学の多くの分野を網羅している。
その半面、もっと書き込んで欲しいと思うテーマも見られた。
著者の専門の反芻動物の第1胃 (ルーメン) については、微生物群集とホストとの共生関係も含め、最近の研究成果も盛られ興味深い。
未消化固形物が基質となることで高い微生物密度が維持される点は、野外での生態システムに共通する話かもしれない。
フロー型とサイクル型の生態システム、工学がブラックボックスにしてきた生態コンポーネントなどの議論も、
考えさせられる部分が多い。大著「動物の生態学」を著された森圭一さん、群集論の大きな論文「種多様性指数値に対するサンプルの
大きさの影響」(日本生態学会誌, 46巻3号) を遺稿とされた森下正明さん、そしてこの栗原さんと、老師のパワーに脱帽する最近である。 (谷田一三)
- 「保全生物学のすすめ」プリマック, b著、小堀洋美訳、文一総合出版、本体3, 800円:
昨年の秋に出版された本書は、アメリカ合衆国で広く読者を獲得したプリマック著の一般向けの教科書、
" Essentials of Conservation Biology" の翻訳書という一面をもつが、日本の読者の関心にも十分に応えるため、
新たにいくつかのコラムが加えられるなどの工夫もなされており、グローバルな視点から日本に特有の問題まで、
幅広く学ぶことのできる教科書となっている。保全生物学の発祥の地ともいえる北アメリカでの「使命の科学」としての
保全生物学の特徴を余すところなく表した好著であり、その「使命の科学」を担う科学者、さらには保全活動家としての著者の
自覚と気迫がよく伝わってくる本である。本書を読めば、保全生物学が実際に保全を進めるために、社会の多様な領域の専門家との
協同をめざしていることがよくわかるであろう。
第1章保全生物学と生物多様性、第2章生物多様性の危機、第3章個体群と種のレベルでの保全、
第4章生物群集レベルでの保全、第5章保全と持続可能な発展(鷲谷いづみ)
- 「サクラソウの目―保全生態学とは何か」鷲谷いづみ著、地人書館、1998年3月、本体2, 000円:
欧米では保全生態学に関する本が次々と出版され、今では数十冊にのぼる。遅れをとった日本では1996年に出た鷲谷・矢原共著
『保全生態学入門―遺伝子から景観まで』 (文一総合出版) が最初の教科書であった。その後、2, 3の類書が出版されているが、
生態学や遺伝学に関するある程度の予備知識がなければ読みこなせない部分もあり、異分野の人問にはむずかしいという声があった。
そこで『保全生態学入門」の入門書をつくろうというねらいで執筆されたのが、本書であるという。
筆者が永年研究に取り組んできたサクラソウという植物を材料に、発芽から開花・結実にいたるまでの研究成果を紹介しながら、
サクラソウの適応とその生活を支える条件を明らかにしている。特に訪花昆虫とのパートナーシップに代表される種間相互の
ネットワークの大切さが強調される。しかし、今やサクラソウも絶滅を危惧されるほど産地が減少し、
残された自生地の将来にも憂慮すべき難題が待ち受けている。開発による自生地の消滅だけでなく、
周辺環境の変化が種間ネットワークの分断を通じて種の存続基盤を脅かすという事態が明らかになってきたのである。
最後の2章はサクラソウを離れて保全生態学の役割と重要性を訴えている。
広範な地球環境問題の行き着くところのひとつが生物多様性の危機であり、「生物多様性の急速な衰退は、
地球環境全体がとても危ないものになっていることを示している。逆に、私たちが的確な現状分析と適切な対策によって地球環境問題に対処し、
生物多様性の現状を維持することができたとしたら、地球にはそれほど大きな破綻が起こらないですむかもしれない。」
というのが著者の主張である。
今、生態学者だけではなく、開発事業の現場にたずさわる技術者やコンサル関係者にも保全生態学への関心が高まっている。
絶滅危惧種を中心にどのようにすれば生き物たちの生育環境を守ることができるか、ということが重要な課題だからである。
しかし、保全生態学は、絶滅危惧種を守るための単なるノウハウの学問ではない。生物多様性、すなわち「遺伝子から景観」
までの多様性を守ることを明確な目標に掲げて研究が展開されるもので、その内容は生態学、分類学、遺伝学などの基礎的研究と深く結びついている。
さらに、自然とヒトとの関わりに関する思想まで問い直そうとする広がりをもつ。
現場で生かされる保全の技術も、もちろん大切である。そのために生態学と土木工学の知恵を持ち寄って考えようというのが
本研究会の趣旨であるが、さらに、保全の努力が何故大切なのかという点で共通の認識を持つことは、もっと根本的な課題である。
そこまで問題意識を共有できてこそ、本会の活動が稔りあるものになるのであろう。
本書は、特別の予備知識がなくても読み進められるよう平易に書かれていながら、読み終わったときには、保全生態学の目指すものが何なのか、
しっかりと理解できる。何よりも保全生態学にかける著者の情熱と使命感が、読者を突き動かすことであろう。 (角野康郎)
- 「中小河川における多自然型川づくり〜河道計画の基礎技術〜」 中小河川における多自然型川づくり研究会編著、
(財)リバーフロント整備センター、1998年、税込500円:
本書は、現場技術者が中小河川における多自然型川づくりの河道計画を行う際に参考となる基礎技術をとりまとめたものです。
以下の内容から構成されています。
- 1. 川づくりの基本的な考え方
- 2. 河道計画の考え方
- 2. 1 どういう川の姿を参考とするか?
- 2. 2 どういう場で川づくりを行うか?
- 2. 3 水域において最低限留意すべき事項
- 2. 4 水際域において最低限留意すべき事項
- 2. 5 陸域において最低限留意すべき事項
- 3. パターン別の河道横断形状の検討例
本書は、書店で取り扱っておりません。ご購入希望の方は、御氏名、会社名、御住所、 電話番号、冊数を明記の上、 faxで下記の担当までお申し込みください。
(池内幸司) 担当: (財) リバーフロント整備センター研究第二部 和田、浅利、北田 tel:03 (3265) 7121 fax: 03
(3265) 7456